ケミカルチャー・ブログ

化学物資の安全性・危険性についてGHSの専門家の立場から解説します。毎週土曜日17時更新です。

キュリー夫人と化学物質の有害性①

キュリー夫人、という名前はみなさんご存知だと思います。女性で初めてノーベル賞受賞者であり、ノーベル化学賞と物理学賞を受賞した唯一の受賞者でもあります。

女性の化学者の功績を語るうえで、必ず名前が上がるキュリー夫人ですが、なぜ今回キュリー夫人を取り上げたいと思ったかというと、キュリー夫人の功績を語ると、自ずと化学物質の有害性を考える上で非常に分かり易いと思ったからです。

 

先ず、キュリー夫人の凄さを簡単に説明してみましょう。夫人なので本名はマリ・キュリーです。夫はピエール・キュリーですが、二人そろってノーベル賞を受賞しています。この時点で凄すぎますね。例えるなら少年漫画の雄『幽遊白書』の作者・冨樫義博と少女漫画の歴史を作った『セーラームーン』の作者・武内直子夫妻の様な感じ。

 

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キュリー夫妻ですが、出会いは科学に絡むもの。お互いに原子(分子より細かい物質のかたまり)を研究していて、その共同研究者でした。二人は研究の結果、新元素であるラジウムを発見しました。これだけでも当時はとんでもない大発見だったのですが、その後もポロニウムという新元素を発見しています。

 

そんなマリ・キュリーですが、死因は白血病でした。その原因は大量の放射線被爆です。当時はそもそも放射線が人の手で観測できて間もない頃でしたから、その危険性は分かっていなかったのです。とはいえ、当時のキュリー夫妻が本格的な発見を果たした放射線は、当時なす術も無かった病、ガンの放射線治療の幕開けとなりました。

 

マリ・キュリーの功績は疑いもなく素晴らしいものですが、一方で化学物質の危険性を知る上で、大変分かり易いサンプルと言えます。つまり、化学物質が危険と知らず触れていて、後になってその有害性が判明する、という様な流れはマリ・キュリーが活躍した凡そ100年前から現在まで、ず――――――と繰り返されているのです。

 

またマリ・キュリーは第一次世界大戦(1914-18年)の場において、戦地にX線撮影機材を運び込みました。負傷した兵士の体のどの部分に銃弾が食い込んでいるか、破片が刺さっているか、精確に確認できるX線写真は、無数の兵士の命を救いました。

その一方で、戦後多くの帰還兵が体調不良を訴えました。原因はX線の被ばくでした。

 

「この世の中で悪用されないものはない。科学技術の進歩はつねに危険と背中合わせだ。それを乗り越えてはじめて人類の未来に貢献できるのだ」。これはダイナマイトを発明者し、死の商人と呼ばれたアルフレッド・ノーベルが、ノベール賞設立に際して発した言葉です。使い道を間違えば、毒にも薬にもなるものが化学であることは良く知られていますが、それに加えてキュリー夫人の様に、全くの悪意なしに生み出された科学技術が、のちに人に牙を剥くこともあるのです。

なかなか化学物質の危険性を全て知って生活することは難しいですが、知る努力は続けていきたいですよね。次回は今の世界潮流を踏まえた、もう少し突っ込んだ話をしてみたいと思います。

 

*このブログは化学物質の安全性と危険性を一般の人にも知ってほしい気持ちから立ち上げました。ご自身は勿論、身の回りの方で化学に詳しくない方がいらっしゃいましたらシェアよろしくお願いします。

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