ケミカルチャー・ブログ

化学物資の安全性・危険性についてGHSの専門家の立場から解説します。毎週土曜日17時更新です。

新型コロナウイルスに効く!?次亜塩素酸ソーダの有害性を検証する

現在、新型コロナウイルス流行の影響でアルコールが品薄になっていますね。薬局に行っても除菌スプレーや除菌シートが欠品している様子を目にする方も多いのではないでしょうか。

なんとなくアルコールと聞くと、「殺菌力がある」となんとなくイメージしている方も多いのではないでしょうか。アルコールには細菌の細胞膜を破壊し、細胞内の生物に必須の成分を溶出させる力があるのです。

そんなわけで、古くから殺菌目的で使用されてきたアルコールですが、現在の新型コロナウイルス騒動の中では、医療用へ真っ先に融通するようになっています。医療の現場に殺菌剤がないと大変ですから当たり前の措置ですね。

 

そんな一般家庭に殺菌剤が中々行き届かない状況の中で注目されているのが、アルコール以外の殺菌剤です。メジャーどころでいうと、次亜塩素酸ソーダ次亜塩素酸水です。

次亜塩素酸ソーダは、よくドラッグストアに行くと「ハイター」「ブリーチ」という商品名で売られている製品の有効成分なのでご存知の方も多いはず。主に漂白を目的に使われますね。ただし、一定濃度に薄めることで除菌効果もあります。

アルコールに比べ、こちらの商品群はまだ品薄にはなっておらず十分手に入りやすい状態です。しかも安価なことが注目ポイントです。

次亜塩素酸水とは次亜塩素酸を含む水のことを差します。pH値(酸性か塩基性かを示す指標)が中性に調整されているので、素肌にやさしく手荒れし難いという特徴があります。こちらは今回のコロナ騒動のために引き合いが多いらしく若干の品薄状態と報道されています。(出典:化学工業日報)

www.chemicaldaily.co.jp

 

気になるお値段は20Lポリ容器で5,000円前後といったところのようです。(2020年6月現在)

 

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(Amazon社HPより抜粋)

 

次亜塩素酸水を調整する機械も販売されていますが、こちらも高額ですね。7,000-8,000円くらいが相場でしょうか。

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(Amazon社HPより抜粋)

 

次亜塩素酸ソーダの水溶液である「ハイター」や「ブリーチ」の販売価格は1.5Lで200程度です。実際には適度に薄めて使用しますので、この1.5Lの製品からだいたい60Lの殺菌消毒液が作れます。

 

コストを見ると、次亜塩素酸ソーダの方が圧倒的にお得という計算になりますね。

しかも次亜塩素酸水は、製品評価技術基盤機構(NITE)が試験した新型コロナウイルスへの効果が確認できた化学物質に入っていません。現在の時点では判定に至らず、検証を続けるそうですが、ならば今の時点で効果が確認されている次亜塩素酸ソーダを使う方が理にかなっている気がします。(出展:独立行政法人製品評価技術基盤機構)

www.nite.go.jp

 

まとめると次のようになります。

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そんな次亜塩素酸ソーダですが、かなり強い塩基性のため、素手で触ると手荒れの原因になるとよく報道でもされています。それはその通りで、GHS分類においても次亜塩素酸ソーダ水溶液は「皮膚腐食性区分1」「眼刺激性区分1」に該当しています。これは「皮膚や眼に触れると重篤(じゅうとく)な損傷を起こします」ということです。

「GHSってなに?」という方は、こちらの記事をご一読ください。

chemiculture.hatenablog.com

 

はたして適度に薄めた次亜塩素酸ソーダ水溶液の有害性はいかほどのものなのでしょうか?

花王(株)の「ハイター」を例にして考えてみましょう。

「ハイター」の成分は以下の通りです。

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花王ホームページより引用

 

ホームページによると、次亜塩素酸ソーダの含有率は6%だそうです。製造時なので、実際に家庭で私たちが使う頃には、少し自己分解し減少していると思いますが、とりあえず誤差と考えます。

厚生労働省はこれを0.05%まで希釈して使用するように公表しています。

今回は1Lの水溶液を調整してみましょう。

 

必要な次亜塩素酸ソーダの質量は、0.05×10-2×1000 g = 0.5 g

0.5gを調整するために必要な6%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の体積は、x = 0.5÷0.06 ≒ 8.3 mL。

 

では実際に0.05%に希釈した次亜塩素酸ソーダ水溶液が皮膚にどのような影響があるか実験してみましょう。

 

今回は自宅にあったキッチンブリーチ(ロケット石鹸社)を使います。キッチンブリーチを約10ml計り取り、水道水で1Lまで希釈します。

 

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希釈した溶液に素手を浸漬させ、30分そのままの状態で放置します。

 

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30分後、手を取り出しましたが表面に手荒れなどは観察されませんでした。数時間ほどは手から塩素臭がしましたが、翌日には無くなっていましたし、肌への影響も引き続き見られません。

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よって、0.05%程度の水溶液ならば、次亜塩素酸ソーダの水溶液は皮膚に付着しても何ら影響がないことが分かりました。塩素臭が気になるという方は市販のビニール手袋を装着して使用すれば全く問題ないでしょう。

 

次回は次亜塩素酸ナトリウムの有害性の調べ方と、その有害性の評価についてお話します。